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上智大学理工学部物質生命理工学科 木川田研究室

研究分野と研究テーマSTUDY

火山・温泉化学

草津白根山での現地調査

草津白根火山の地球化学的研究

 群馬県の草津白根火山は日本の代表的な活火山のひとつで,その東麓には草津温泉が,西麓には万座温泉が位置します.また草津白根山の山頂には3つの火口湖があり,その中で最も大きな湯釜火口湖では,湖底から火山ガスの供給があり,約pH 1の強酸性の湖水を湛える活動的火口湖として世界的に知られています.草津白根山では2008年以降,種々の火山活動活発化の兆候が観測されており,2014年6月には噴火警戒レベルを2(火口周辺規制)に引き上げています.上智大学では,1960年代から地球化学的手法による草津白根火山の火山活動のモニタリングに取り組んでおり,木川田研では引き続き今日もその関連研究を進めています.

火山活動のモニタリングと火山熱水系の解明

 草津温泉や万座温泉の源泉水の化学組成や,山頂火口湖の湖水の化学組成は,草津白根火山の火山活動の変化を反映して変動していると考えられます.我々はこの水質変動を手がかりに,火山活動の推移を捉え,噴火予知に繋がるような草津白根火山の噴火メカニズムや地下熱水構造の解明を目指しています.火山の中を直接割って覗き見ることはできませんが,温泉水や地下のマグマから供給される火山ガスは,火山山体内部の環境を知る上での貴重な情報を我々に提供してくれます.

温泉周辺地域と周辺河川の環境評価

 草津温泉,万座温泉は何れも酸性の源泉群です.酸性の源泉水は河川に流入することで,酸性河川を生じます.また,草津白根火山の周辺には旧硫黄鉱山が点在するため,高濃度に硫酸を含む鉱山廃水がやはり酸性の河川を生み出します.我々はこのような酸性河川が周辺環境にどのような影響を与えているのか,また,将来どのような問題が生じるかを検討するため,広域水質調査を継続的に行っています.特に草津白根火山東麓の湯川水系では1964年から酸性河川中和事業が行われており,中和事業が湯川水系の河川環境に与える影響の定量的評価を試みています.

大気環境化学

活動報告写真

大気降下物と大気浮遊物質を対象とした研究

 日本の高度経済成長の時期には,国内の大気は工業生産活動により排出される様々な物質により汚染され,呼吸器障害の発生など多数の公害問題を引き起こしました.また1960年代から1970年代には大気圏内核実験による人工放射性核種が,近年では黄砂が大気環境における大きな話題となっています.このように日本国内の大気環境は,全地球規模での大気物質循環の中に組み込まれ,特に中国大陸から大きな影響を受けています.大気汚染は国内だけの問題ではありません.
 我々は大気降下物や大気浮遊塵の微量元素組成や同位体組成から,汚染物質の起源とその寄与率を求め,大気環境の現状を明らかにするとともに,対流圏での物質移動プロセスのモデル化を試みています.

大気降下物の化学組成と同位体組成

 大気中に存在する粒子状物質においては,巨大な粒子は自重により落下しますが,軽く微細な粒子は降水現象に伴って地表へ沈着します.降水も含めて大気中からの降下物の全量を捕集した「大気降下物」は,地表に降下するほぼ全ての物質を捕捉したことになります.したがってその化学組成や同位体組成は,現状の大気環境の全体像を理解するための重要な指標となります.

大気浮遊塵の化学組成と同位体組成

 大気を介して運搬される浮遊粒子(エアロゾル)には土壌粒子,海塩粒子,煤塵,花粉などの一次粒子と,大気中での化学反応により生じた硫酸塩などの二次粒子があり,その発生,生成過程と輸送過程はきわめて複雑です.工業地帯や都市部の周辺では,産業や人間活動に由来する様々な化学物質をエアロゾル中に見出すことができます.また黄砂の場合,中国大陸内陸部の発生源から日本まで運搬される過程で,その表面に大陸大気から様々な汚染物質を取り込んでいます.大気をフィルターを介して吸引捕集して得たエアロゾルを水溶性成分と不溶性成分とに分け,その化学組成の時間的変化と気象因子との関係を解析すると,エアロゾルを構成する物質の化学形態やその発生源,構成割合などを推察することが可能となります.

放射性核種の環境化学

活動報告写真

放射性核種を対象とする研究

 環境中には様々な放射性核種が存在しています.特に第二次世界大戦以降,核開発の進行とともに地球上には多くの人工放射性核種が存在するようになってしまいました.近年では核関連物質の闇取引や核テロの発生も懸念されており,放射性核種や放射能に関わるリスク管理の重要性が一層高まっています.放射性核種は分解して消し去ることは出来ません.その半減期に従いながら様々な化学形態で環境中に存在し,循環します.我々は,様々な環境において放射性核種がどのような移動能を示すのかを,ナチュラルアナログ的手法とモデル実験との両面から検討しています.

放射性核種による環境汚染

 東北地方太平洋地震,いわゆる「3.11」によって生じた東京電力福島第一原子力発電所の事故は,未だ完全な収束を迎えられずにいます.事故により原子炉から環境中に放出された人工放射性核種は,自然界の物質循環プロセスに取り込まれ,環境中を巡ります.科学者はこれまで,大気圏内核実験やチェルノブイリ原発事故により放出された放射性核種を追跡し,環境中でのそれらの挙動に対する理解を深めてきました.しかし,現在進行中の福島第一原発事故による放射性核種の長期的な環境負荷を正しく予測・評価できているのでしょうか.実際に放出された放射性核種が地表面に沈着した後,土壌中や河川・地下水・海洋などの環境中をどのように移動,循環しているのかを化学的な視点で検証することがきわめて重要です.

高レベル放射性核種の地層処分

 原発事故を受けて,原子力エネルギーに対する是非は今後しばらくの間,大きな議論となることは間違いありません.原子力エネルギーに対する依存度が一層高まった場合,原子力エネルギーを永続的に利用し続けるための核燃料サイクルの確立が不可欠です.この際,使用済み核燃料の再処理過程で生じる高レベル放射性廃棄物をどのように処分するのかは大きな問題です(この再処理過程を核燃料サイクルのバックエンドと呼びます).日本では高レベル放射性廃棄物を地層処分することを前提に,現在,処分場候補地の選定とその安全性の評価が急がれています.また,今後の議論により脱原子力エネルギーへと転換したとしても,すでに大量に存在する使用済み核燃料をそのままにしておくわけにはいきません.
 地層処分では再処理により生じた廃液をガラス固化体にします.ガラス固化体はオーバーパックと呼ばれる金属容器に入れられ地中深くに埋められますが,埋設時にオーバーパックの周囲を粘土(緩衝材)で取り囲むようにします.オーバーパックはガラス固化体と地下水が接触しないようにするためのものですが,時間の経過とともにオーバーパックが腐食して(埋設後,千年以上を想定しています)ガラス固化体から放射性核種が染みだした場合には,粘土がそれ以上の漏洩を防ぐ役割を果たします(粘土は透水性が低いのです).我々が対象とする安全性とは,放射性核種がオーバーパックから粘土へと漏れ出した際に,さらにその外部へと浸透・拡散する危険性がどの程度あるのかという点です.この安全性を評価するためには,地中での放射性核種の化学的挙動を明らかにする必要があります.


環境分析技術の開発と応用

活動報告写真

 環境試料は多種多様であり,その評価の目的に応じた最適なサンプリング,試料調製,分析,データ解析の各手段を選択しなくてはなりません.これまでとは異なる新たな視点で環境を評価しようとした場合,従来法では対応できないことや,場合によっては全く新たな分析手順・手法を開発する必要に迫られる場合も往々にしてあります.環境分析においては,ある元素や化学物質の濃度が法的な規制値を満たしているか否かがきわめて重要なのは確かですが,ある元素のひとつについて見た場合,その毒性や環境中での移動能は化学形態によって大きく異なることから,実際的な環境評価においては,どのような元素や化合物がどのような化学種や状態で環境中に存在しているのかを正しく分析することが強く望まれます.我々は,環境をより正しく評価するための分析技術の新規開発と改良,そしてその現場への応用を進めています.


所在地

〒102-8554
東京都千代田区紀尾井町7-1
上智大学理工学部物質生命理工学科
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