オーレリー・デュポンと出会って


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  パリオペラ座は毎週木曜日のお昼に愛好者が気軽に立ち寄れる催し物を行っています。ステュディオ・バスティーユと呼ばれる、バスティーユオペラ座の正面大階段左手にある別棟の小ホールで開かれる、入場無料の文化活動です。室内楽の演奏会あるいは講演会や記録映画の上演会であったりします。また演出家や演奏者との対談に立ち会うこともできます。2006年2月9日には、オペラ座のエトワールの中でもひときわ気品と優美さが際立つオーレリー・デュポン(A)が出演しました。対談の聞き手役は、バレエ団芸術監督であるブリジット・ルフェーヴル(B)でした。一部をご紹介します。

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(B)オーレリーは、普段はとても控えめな人柄なのだけど、今日はたくさん喋ってもらいましょうね。先ずバレエを始めるきっかけは何だったのかしら?

(A)4歳のときにバレエ学校に入ったのだけれど、それは楽しく遊べると思ったからなの。そして10歳で、パリ・オペラ座バレエ学校に入学。それから嬉しいこと、大変なこと、いろいろありましたね。

(B)それはこれまでのインタビューでも言っていること?

(A)ええ、インタビューで時々オペラ座バレエ団やバレエ学校のことを批判するけれど、素晴らしいことしか言わなかったらつまらないでしょう。もちろん素晴らしいことのほうが多いのだけれど、感心しないこともあるのよ。例えばバレエ学校時代のことで、この場だけの内緒にしてね、ショックを受けたのは [...] 

(B)ダンスを踊るときに特に重視していることはあるかしら?

(A)わたしが一番大事にしているのは音楽。音楽が良ければ、わたしもそれと一体になって踊ることができるの。時々自分が踊りやすいようにとここはもっとゆっくりだとか、ここはさっとすませてとか注文を付ける人がいるけれど、わたしは自分のダンスの都合の良いようにタクトのさばきを変えろなんて言いません。わたしは音楽の一貫性を尊重するから、指揮者の音楽の構築に従って踊るの。音楽にたいして同じような感覚を持っている相手と踊るのは楽しいけれど、時にはそうじゃない人もいるわね。

(B)マニュエル・ルグリのことはどう思っているの?

(A)彼のお気に入りのパートナーとなって以来、ずいぶんと教わることが多いのだけれど、彼は要求が高いから大変なの。バレエは奥が深いのだけれど、これくらいでいいでしょうと思うことを、いやまだ駄目だ、もっとこうやれないかなと言うことがしょっちゅうなの。でも彼のおかげで、たくさんのことが見えるようになったわ。もうすぐ彼は引退するんだと考えるだけで、胸が痛むわ。

(B)コンテンポラリー・ダンスにも強い関心を寄せているのね?

(A)ええ、コンテンポラリー・ダンスはわたしに転機をもたらしてくれたの。ピナ・バウシュの『春の祭典』のことだけれど、オペラ座でピナの作品が上演されるとわかったときに、わたしはすぐにあなたのところに志願しに行ったことを覚えているでしょう。技術的に高い評価を得ていたけれど、わたしはすぐ自分に疑いを持つ人だった。常にこうしなくちゃ、最高にもっていかなくちゃ、人から完璧だと思われなくては、という考えにとらわれていたの。練習のとき本当に苦しくて、これでいいのかしらと思うばかりで、楽しくなかったわ。そうしたらピナが、弱い自分、欠点を持つ自分を見せていいのだと言われて、解放されたような気がしたわ。だって、全員から完璧だと思われるなんてありえないでしょう。最善を尽くして、自分のダンスをすればいいんだとわかったのよ。

(B)その後創作ダンスに積極的に出演しているわね。

(A)そう、振付家がコンテンポラリー・ダンスをわたしのために創作してくれることがあるけれど、それはオーダーメードの服のようでとても居心地が良いわ。古典は、わたしの前に多くのダンサーが踊ったし、これからも踊られるでしょう。

(B)もうじき上演が始まる『白鳥の湖』は古典中の古典だけれど ...

(A)白鳥の湖』はこれまで踊ったことがなかったのね。最近まで興味がなかったし、わたしに向いている役だとも思っていなかったの。ロシアのバレリーナのように細長い線の身体でもないし。それで今回は練習の途中で面白いかいと聞かれて、ううん、全然と答えてから、議論になって、それから考えが変わったの.考えるべきことがたくさんある作品ね、これは.

(B)一番踊るのが好きな作品は何?

(A)『ロミオとジュリエット』よ、最初からずっとね。

(B)では、これから何人か会場のお客様からの質問に答えてもらうことにしましょう.[...] それじゃあ、間もなくリハールの時間になるから、今日はこれくらいでおしまいにしましょうか。

(A)アクターズ・スタジオの対談みたいで、とても楽しかったわ。


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(編集後記)この日は現在のダンスの世界を代表するエトワールの登場とあって、ホールの前には一時間も前から列ができていた。会場に座って周りを見ると、幼い少女から若いカップル、中年のおばさま、初老の紳士までと、どの世代の人も来ている。みんなから愛されていることを知っている彼女の会場からの質問への受け答えを聞いていても、オーレリー・デュポンは誠実な人柄、真っ直ぐな気質を持っているとともに、初々しく繊細な感性と問いかけを見いだす知力のあるすぐれた人間であることがわかる。そんな彼女が踊りながら自分の音楽を作る、その音楽がオーケストラの音楽と融合して、美の世界を形作るのだから、人々を深い感動のうちに引き寄せることは自然なことなのかもしれない.

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