以下は、世界古代研究会(旧名称:古代解放運動史研究会)月報『かいほう』No.55(1996/8/20)に掲載されたものです。西欧古代史研究のパソコン利用の最新情報と思われますので、掲載先がマイナーな月報なので、埋もれさすには惜しいと思いました。

筆者の了解をえて、著者がHPを開設するまでの限定つきで転載します。

古代史研究におけるパソコンの利用

師尾晶子

1 必要な機器とフォント・ワープロソフト

CD-ROM史料集を利用するには、IBM系もしくはMac系のコンピュータが必要である。TLG, PHI #6などギリシア語の史料集を利用するためには、ギリシア語フォントとフォントに対応したワープロソフトも必要になる。現在以下のものが入手できる。

【フォント】 IBM用には、Laser Greek(Linguist's Software; P.O.Box 580, Edmonds, WA 98020; $100), Turbo Fonts (Image Processing Software; P.O. Box 5016, Madison, WI 53705; $229), Word Perfect Language Supplement (Word Perfect; $90) などが発売されている。Mac用には、LaserGreek( Linguist's Software; $99.95), Greek Keys (Scholars Press; P.O.Box 15399, Atlanta, GA 30333-0399;web: http: //scholar.cc.emory.edu; $50) がある。 Macに関していえば、使い勝手が一長一短なこと、後述のCD-ROM検索ソフトが必ずしも両フォントに対応していないことから、両方もっていた方がよい。

【ワープロ】 IBMではギリシア語の使用できるワープロは限定される。Gamma Universe(Win) (Gamma Productions; 12625 High Bluff Dr. #218, San Diego, CA 92130; $150; font incl.), Nota Bene (Dragonfly Software; 285 W. Broadway #500, New York, NY 10013; $495; acad: 199), Word Perfect などである。Macの場合、フォントを指定すればどのソフトでも使用できる。


2 CD-ROM史料集

2-1 TLG (Thesaurus Linguae Graecae) (TLG Project; University of California, Irvine, CA 92717-5550; E-mail: tlg@uci.edu; web: http://www.tlg.uci.edu/~tlg/; a) Institutional license (5 Years) $850; b) Individual (5 Years) $500;  c) Site (5 Years) $3500)

TLGは名称が示すとおりThesaurus Linguae Latinaeのギリシア版としてつくられたものである。ホメロスから紀元600年ごろまでのギリシア語の全テクストが網羅的に収められ、編纂史料・辞書、スコリアについてはそれ以降の時代のものもすべて含まれる。当初からテクストを電子化することが計画され、現在はTLG DとしてCD-ROMの貸し出しがおこなわれている。TLG DにはTLGのデータバンクに収められた全7000万語のうち5700万語ほどのデータがふくまれている。言い換えればTLG Dには全データのうち1300万語ほどがふくまれていないわけで、まだ完成版とはいえないが、基本的なテクストはすべて収められているといってよい。TLG Dにふくまれていないデータについても検索が必要な場合、有料の検索サービスを利用できる。TLG利用のためには、CD-ROMのほかに検索用ソフトが必要である(PHIの項参照)。現在、TLLも電子化にむけて準備が進められている。

2-2 PHI(Packard Humanities Institute)(PHI, Brigitte R. Comparini, 300 Second Street, #201, Los Altos, CA 94022 ; $50 (1 Year); $125 (3 Years))

PHIは2種のCD-ROMからなる。すなわち、#5.3がTLGに準拠した形で前2世紀から後2世紀までのラテン語のテクストと聖書を収めたもので、#6が碑文、パピルス、コプト史料を収めたものである。異読についての情報はないが、史料だけでなく文献情報も収められており、情報を整理するのに便利である。#6の最大のメリットは、必要な語についてみずからインデックスをつくれることだろう。既刊の碑文集にはインデックスのないもの、不十分なものが多いからである。ただし、IG I3 Pars IIはふくまれておらず、またアッティカ以外(とくにギリシア本土以外)の地域の碑文については未入力のものも多く、より内容の充実した版への移行が期待される。

TLGと同様に、PHIの利用にも検索ソフトが必要である。IBM用にはLBase 6.0 (Silver Mountain Software; 1029 Tanglewood Dr., Cedar Hill, TX 75104; $195; TLG & PHI), Musaios (Dumont; 15237 Sunset Blvd. #20, Pacific Palisades, CA 90272; $75; TLG & PHI), PHI Work Place (Silver Mountain Software; $85; $145 with TLG Work Place), TLG Work Place ( 同; $85; $145), Chiron (Cellar Door Software; 10831 Montego Dr., San Diego, CA 92124; $50; TLG) などがある。Mac用にはPandora(Scholars Press; $50; TLG & PHI), Musaios (Dumont; $75; TLG & PHI), TLG Engine/Any Text (Linguist's Software; $99.95 each; TLG) などがある。TLGのweb site (WWW)で情報を得られる。
なお、TLG, PHIについては、西洋古典学研究40(1992)の片山英男氏の書評が参考になる。版は新しくなっているが、検索ソフトをふくめて基本的な仕様に変更はない。

2-3 Inscriptiones Graecae Eystettenses. A Database for the Study of the Greek Inscriptions of Asia Minor.

既刊の小アジア関係の碑文集をおさめたもので、今年5月にCD-ROMの提供が始まったばかりである。SEGの関係碑文も収録されているが、ミレトス、エフェソス、エリュトライ、テオスの碑文集等未収録ものも多い。今秋までにInscriptions of Bithynia & Pontus が加えられる。今のところIBMにしか対応していないが、Power Mac 版も計画中らしい。

2-4 Perseus Ver2.0: Sources and Studies on Ancient Greek Culture, Yale University Press, 1996.

Perseusはいわゆるインタラクティブソフトであり、インターネット上のWWWを介して利用できるが、CD-ROM(for Mac)の形で販売されてもいる。今夏第2版が発売になる。内容は、31人の著作家の作品とその英訳・注釈、Liddell-Scott Intermediate Lexicon (WWW版ではフルサイズのLiddell- Scottも入っている)、地図、2万5000におよぶ建築物や彫刻、貨幣、壺などの画像、その他からなる(画像の数はWWW版のほぼ倍である)。ギリシア語のテクストをコンピュータ上で辞書を引きながら読むことができるのが特徴である。フルサイズのものは4枚組で$350(2 giga byte以上の外付けハードディスク要)、コンパクトサイズのものは1枚組で$150である。両者の違いは画像の大きさのみである(フルサイズ/1.3×1.1インチ)。個人利用には、コンパクトサイズの方が使いやすいだろう。


3 オンライン雑誌

オンライン雑誌は年々増えており、すべてWWWからアクセスすることができる。
以下に主要な雑誌の掲載内容と特徴を記す。

Arachnion(http://www.cisi.unito.it/arachne/arachne.html)とElectronic Antiquity は、レフェリー付きの数少ない電子雑誌である。後者は商用ネットを介してftpサイトからもダウンロードできる(ftp://ftp.utas.edu.au/pub/classics/)。Electronic Antiquityの Electronic Forums and Repositories for the Classics では、電子テクスト、電子雑誌、Discussion Group についての詳細な情報が提供されている(最新はVol.3-4(1996.4))。Bryn Mawr Classical Reviewは、名前の示すとおり書評誌である。この雑誌の一番の特徴は、ほぼ毎日新しい書評がオンライン上に流されることである。また、1カ月ごとに受贈図書の一覧が掲載されるので、新刊情報をいち早く得られる。WWWからアクセスするだけでなく、予約してファイルを送ってもらうこともできる(listserv@cc.brynmawr.edu に題名をつけず本文にsubscribe BMCR-L first name last nameとだけ記して送る)。Scholiaも書評誌で、scholia@classics.und.ac.zaにメールを送るとファイルを電子メールで送ってくれる。オンライン書評誌の一番のメリットは、紙数の制限がないことだろう。scholiaの書評も時にかなりの大きさのファイルになる。

以上のようなオンライン雑誌に加え、目次をオンライン上に公開する雑誌も増えている(AJA, AHB, BASOR, Phoenix, TAPA, Traditio, ZPE など)。とくに最新巻の目次は、研究中のテーマに関する最新論文や任意の研究者の最新論文を探している場合に有用である。また、過去の巻の目次一覧をオンライン上に流している雑誌も多い。ArethusaとPhoenixはこれに加えて次号の目次と要約をも公開している。またAncient History Bulletin は最新号および近刊の論文のダウンロードをサービスしている(http://137.122.12.15/docs/directories/AHB/AHBinfo.html)。国内にあまり入っていない雑誌であるだけに自宅でダウンロードできるのは至極便利である。


4 オンラインおよびCD-ROM文献検索

古代史研究者にとって最も詳細な文献情報誌はL'annee philologiqueであろう。しかし、情報が得られるまでに数年を要し(最新巻は63(1992))、またキーワードを使った検索ができないため、必要な論文を探すにはかなりの時間を要する。Gnomonの巻末文献情報は、L'annee philologiqueよりも速報性は高いが、逐一読んで情報をチェックするしかなかった。

現在、L'annee philologiqueの47(1976)巻から58(1987)巻までの内容を収めたものがCD-ROMで提供されている(D.L. Clayman (ed.), The Database of Classical Bibliography. Vol.1. Featuring L'annee philologique volumes 47-58(1976-1987). Scholars Press, 1995; individual license: $85; institutional: $340-2400)。電子化されることの最大のメリットは、複数の巻から必要な情報を迅速に検索できることである。今後その他の巻についても電子化されると、将来的には最も基本的で重要な文献情報ファイルとなるだろう。

TOCS-INは、オンライン文献情報の中でもっとも包括的で情報の迅速なものである。1992年以降に発刊された主要な雑誌についてネット上にいち早く公開している。インターネット上からもアクセスできるが、商用ネットのゲートを通してアクセスすることも可能である(ftp://ftp.epas.utoronto.ca/pub/tocs-in)。ただし、後者の場合はファイルをダウンロードするのみで、TOCSに蓄積された全てのデータの中から文献検索することはできない(ファイルは1年ごとに分割され、最新のものはtocs.newとなっている)。便利なだけに回線が混雑しているので、欧米からのアクセスの少ない時間帯を選んだ方がよい。主要な雑誌は網羅されているものの(現151誌)、小アジアや北アフリカなど特定の地域に関する雑誌についてはまだ情報不足である。

さらに、1996年春よりGnomonがオンラインサービスを始めた(http://www.ub.ku-eichstaett.de/Gnomon/)。1990年以降の Gnomonに載せられた書評、文献情報等が含まれている。ただ、回線が細いためかアクセスに時間がかかり、これまでホームページより中に入り込めたことがない。

すでに予定の紙数を相当超えてしまった。http://www.yahoo.com/Arts/Humanities/Classicsから Repositories of Classical Texts or Publicationsに入るか、Classics and Mediterranean Archaeology に入ってミシガン大学のゲートに入るとより詳細な情報を入手することができる。これらのサイトから、ドイツ、イタリア、フランス等の古代史研究の電子化の状況についても知ることができる。

以上『かいほう』55号(1996.8)2-5.(1996.7.10 脱稿)

付記:Gnomonには、その後アクセスすることができた。Gnomonの有用性は、キーワードを使って文献検索できるところにある。ただし、キーワードはかなり大まかなもので(ペロポネソス戦争、トゥキュディデス、弁論家、アテネの国制など)、前述のように大部分は1990年以降の文献に限られる。また、紙数の関係で『かいほう』誌上には紹介できなかったが、Diotima(http://www.uky.edu/ArtsSciences/Classics/gender.html)は大変有用なホームページである。古代の女性史、ジェンダーに関する情報提供を中心にしており、女性史、宗教史に関心のあるものにとってはとりわけ役に立つ。また、リンク集が充実しており、ここから古代史に関するたいていのホームページへリンクすることが可能である。Diotimaへは、前述のClassics and Mediterranean Archaeologyからもリンクできる。

(1997.1.10)


師尾 晶子:VFF23135@niftyserve.or.jp