日本の野宿者運動におけるさまざまなネットワークづくりの試み

日本の野宿者運動におけるさまざまなネットワークづくりの試み


  日本社会における貧困者のひとつとしてはまず最近急に増えてきた野宿者があげられるでしょう。彼らの中にPeopel's Processの鍵となる主体性、共同性、創造性の芽はありますが、まだ日本ではそれが大きな動きにはなっていないようです。また行政にしても支援団体にしてもPeople's Processの発展への意識があるとは言い難いと思いますが、長期的には重要なことだと思います。ただし、様々なレベルでのネットワーキングの試みは行われはじめています。下に私がご紹介できる範囲でその例を挙げておきます(関東近辺には幾つもの野宿者の支援団体があり、それらを中心としたネットワークキングです)。関心がある方は調べ、また実際に関わってみてください。将来的にはこのようなネットワーキングがPeople's Processのプラットフォームとなる可能性は十分あると思います。しかしながら、下記のフードバンク以外は、野宿者を支援している現場団体等を通して、実際に野宿者に関わり、野宿者の置かれている現状をある程度わかってからでないと意味がわからないかもしれません。現場にまず来て見たい方は、下川までご連絡ください。

野宿者に関しての概説

→私とは考えが異なる部分もありますが、第一歩として野宿者に対する一般的な見方からの概説としては役に立つと思います。

*フードバンク(summarized by Yuasa)→私も運営委員をしています。

  「お米を中心とした食材集めを通じて、野宿者および生活困窮者問題を社会化し、団体間ネットワークを強化する」のがテーマです。現在約40団体が登録し、毎月1,3トンのお米を20団体近くに提供しています。発足3年弱で提供したお米は30トンを超えます。「米」というわかりやすい接点を設けて多くの団体と関係を持っていることが長所でしょうか。あとは農家とのつながりを持っているというのが特色。
  当事者集団との直接の接点はなく、それが活動の弱点でもあり課題でもあります。最近は隅田川医療相談会の炊き出し部門を担当し始め、当事者との接点を模索しています。事務所に固定的に来て手伝ってくれる仲間(野宿者)は二人。
  最近力を入れているのが、これまでは純粋に寄付頼みだったお米集めに関して、自分たち自身がお米をつくり食材を確保する「われわれの米作り」プロジェクトです。これは、元渋谷の路上にいて、現在は就農先で自活生活をしている仲間の協力で実現しました。就農による自立を果たした仲間が、現在路上にいる仲間のために米を作り、それを提供しようとしている、それに対してフードバンクが米作りに必要な経費を支出し、協力する、という形です。遺伝子組み換え食品の蔓延に対して在来の「種」を守るための活動として、最近各種のトラスト運動が農民運動の中で注目されていますが、その方式を応用しながら、協力農家にお米作りを委託し、当事者がお米作りに携わり、できたお米を自分たちで炊き出しに使う、というスタイルの普及を計画しています。フードバンクの持つ各登録団体とのネットワークと協力農家とのつながりが有効に生かされれば、面白い成果を挙げられるかもしれません。これには同時に、「あげるーもらう」というスタイルに陥りやすい炊き出しに対する当事者の意識変革をもたらす効果も期待されています。
  現在、がんばっていた学生ボランティアスタッフの就職などで現在人材はかなり不足気味。東京ボランティアセンターなどを巻き込んだ合同ボランティア説明会なども企画中です。

*自立生活サポートセンターもやい(summarized by Yuasa)

   「お金だけでは解決できない生活困窮者の人間関係の貧困の問題を自分たちの力で解決していく」というテーマが大枠です。
   社会的な注目を挙げ、かつ高いリスクを背負ってやっているのはアパート入居時の連帯保証人提供。発足2年弱で350世帯に提供しました。現在は一ヶ月先まで面談予約が埋まっている状態。 当事者は主に生活保護受給者で、彼らは互助会を作って毎月二回、提起的な集まりの場をもっています。内容はテーマのない懇親会だったり、福祉事務所のCW・医者・弁護士を招いての 学習会だったり、料理教室だったりカラオケ大会だったりと決まっているような決まっていないような、です。
  連帯保証人提供や互助会の他には、東京都の自立支援事業施設への面会行動や必要に応じての随時の福祉行動があります。 福祉行動は、たとえば自立支援事業を利用して就労し、アパートを確保したまではいいものの、その後失業によって生活苦に陥った人たちからのSOS 連絡に応じて行っています(行政の自立支援事業を利用して就労によるアパート確保に至るのは利用者全体の15%程度ですが、約半数が2年以内に再度の生活困窮状態に陥ります)。 やや特徴的なのはこの福祉行動のやり方で、私たちは福祉事務所に行く前に、1時間から2時間をかけて徹底的に当事者との意思一致を行います。そこでは福祉事務所の「圧迫面接」 に耐えうるだけの必要なノウハウを伝授する他、必要に応じてロールプレイを行い、ともすれば申請を受け付けずに追い返そうとする福祉事務所の対応を肌で知ってもらいます。そして、 福祉事務所では付き添いの支援は基本的に一言も話しません。生活保護受給後は担当のケースワーカーに自分ひとりで対応していかなければならず、支援者は申請のときに手伝うこと はできても、その後のことまで責任を負えないからです。この手法は現在のところ奏功しており、私たちは20代から50代の当事者とともに、対応のまちまちな23区の福祉事務所の大半を 訪れていますが、100%の確率で申請を受理させています。

*IMA(いま)緊急シェルター (mainly summarized by Yuasa)

  各地の野宿者支援団体が直面する問題の一つとして、土日に仲間(野宿者)の体の具合が悪くなり、救急車を呼んでも野宿者だという ことで病院で追い返される場合が多々あります。しかしながら、土日は役所の窓口も開いておらず、月曜まで、路上で放置されると危険な場合がしばしばあります。そのような路上の緊 急時対応の充実が目的です。
現在、路上の現場団体(野宿者支援団体)がドヤやカプセルホテルに仲間を泊めた場合に経費を提供したり面会に行ったりするプログラム(IMA緊急保護基金プログラム)を進めつつ、 台東区内に部屋を確保し、緊急時シェルターとしての発足を準備しています。発足したのが去年の12月、これまでの利用実績は10件程度と、あまり実質はありませんが、「居場所作り」と「次 へのステップの足がかり」をキーワードに今後活動を展開していく予定です。

*ホームレス総合相談ネットワーク(summarized by Yuasa)

  今のところ弁護士・司法書士といった法律家中心のグループですが、将来的にはさまざまな専門家の協働による総合相談会の実施を目指しています。月一回程度の定例相談会と、それ以外の依頼に対応する当番制の実施、貧乏人がアクセスできるようにするための基金の設立、などをやり始めています。
  3月22日には行政の緊急一時保護センター・大田寮におしかけてボランティアでの法律相談会を開き、29件の仲間の個別法律相談を受けました。毎月一回の定例法律相談会を路上と行政施設で交互に開催していく予定です。
  発足2ヶ月でMLには15名程度の法律家と25,6名の支援者が参加しており、現在非常に意気盛んです。メンバーは非常に意欲的かつ能力の高い連中の集まりで、法律家の枠を超える福祉事務所への生活保護申請などにも同行して実績を挙げています。 四ツ谷おにぎり仲間(四谷・日比谷公園・東京駅あたりを中心とした野宿者支援団体)が困り果てていたケタオチ病院をやっつける法律的スキルを学ぶ学習会や、本人でも自己破産手続ができるようになるための学習会、また法律家向けの生活保護学習会の企画など、企画物にも積極的に取り組んでいます。また、貧乏人でも法律家のサービスを利用できるように、費用貸付のための基金設立にも着手しています(本来そうした人たちのために(財)法律扶助協会という組織があるのですが、生活困窮者の利用増加による財政難から、現在徐々に利用条件が厳しくなってきており、真の生活困窮者が利用できなくなりつつあります)。



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