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下村研究室は光集積回路実現に関する研究を行っています。   ▷English

〒102-8554 東京都千代田区紀尾井町7-1
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量子井戸の電界屈折率変化QCSE

量子井戸構造に電界を印加したときの吸収変化は量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum Confined Stark Effect, QCSE)として知られています。量子井戸構造では、電子および正孔は、中央の井戸層と両側の障壁層とのエネルギーギャップ差のために、井戸層内に閉じこめられ、その結果、井戸内には離散的な量子準位が形成されます。電界が印加されていないときは、伝導帯の電子および価電子帯の重い正孔と軽い正孔の各準位に伴う波動関数は、井戸の中心に関して対称な形となっていますが、量子井戸層に垂直な電界を印加すると、伝導帯の電子の波動関数は中心より左側に、価電子帯の正孔の波動関数は右側に移動します。またこのとき伝導帯の量子準位は相対的に低下し、価電子帯の量子準位は相対的に上昇します。こうして印加電界の増加とともに、実効的なエネルギーギャップは減少することになります。また波動関数の変形の結果として、電界を印加していないときの許容遷移および禁止遷移の振動子強度は、電界の増加とともにそれぞれ減少および増大することになります。
上で述べたのは自由キャリア(井戸層面内では二次元の運動自由度を持っているため)の準位間遷移の変化を示しています。一方バルク半導体と比較して量子井戸構造における光物性で特に重要なものは、室温励起子の存在です。励起子(exciton)とは、光吸収によって生じた電子・正孔対がクーロン力によって互いに束縛されている状態です。
GaAsの場合、励起子の結合エネルギーは4.2meVと小さく、励起子効果による光吸収ピークは極低温でしか観測されず、室温ではフォノン散乱により吸収ピークは完全に消失します。一方、量子井戸構造では、励起子の状態が通常のバルク半導体ときわめて異なった挙動を示し、2次元励起子の結合エネルギーは3次元励起子の4倍の大きさとなり、振動子強度も大きくなります。その結果、通常のバルク半導体では、極低温でしか観察されない励起子に伴う急峻なピークが、量子井戸中では結合エネルギーが大きいために室温でも安定に存在します。
バルク半導体に外部から電界を印加した場合、フランツ・ケルディッシュ効果により、バンド端吸収のブロードニングが起こります。極低温でバルク半導体に存在する励起子に電界を印加しても、電子・正孔のクーロン相互作用が電界で変化(シュタルクシフト)し、束縛エネルギーは減少します。ところが、一般にバルク半導体中では、古典論から予想されるイオン化電界よりも小さい電界で励起子は解離してしまうので、バルク半導体ではフランツ・ケルディッシュ効果が主で、シュタルク効果はあまり重要ではありませんでした。
ところが量子井戸構造では、層厚方向に垂直に電界を印加した場合は、バリア層が励起子の解離を妨げるために、バルクのように励起子が弱い電界で解離することはありません。たとえば10^4Vの電界が10nm幅の量子井戸層に印加すると、井戸は10meVだけ傾きますが、この程度の電界では量子井戸中の励起子は解離することはなく、光吸収スペクトルは低エネルギー側にシフトしたピーク構造が観察されます。この現象は量子閉じ込めシュタルク効果(Quantum Confined Stark Effect;QCSE)と呼ばれています。このように室温においても容易に解離しない励起子吸収は、電界によってエネルギーがシフトできるために各種光変調器や光スイッチとして研究が行われています。
われわれはさらに低次元量子井戸構造に電界を印加したときの屈折率変化、吸収変化を理論的に計算し、デバイス構造に応用したとき、応答速度の高速化、消費電力の低減にどれだけ寄与するかを検討しています。






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